Ⅳ:変革のグランドデザイン
「変革のシナリオづくり」に活かされる”学習する組織”
組織学習をシンプルに述べると、「行動が変わる体験を通じながら意識が変わっていく」ということになります。
その結果、得られた新しい考え方や行動(仕事のやり方)によって、経営や現場の課題を見つけ、解決する経験を積み、組織に定着していく一連のサイクルが組織風土改革です。
ピーター・センゲが提唱する『学習する組織』には「5つの学習領域」があります。
カレンコンサルティングは、これら5つの学習領域の各要素を丁寧に「変革のシナリオ」へ盛り込んでいきます。
組織のメンタルモデルとメカニズム
”学習する組織”から「メンタルモデル」を1つ取り上げてみましょう。下図は体質の新旧による組織メカニズムを模式的に示したものです。
左側の図は「古い体質の組織メカニズム」です。本質的な議論の欠如、ありたい姿の不在は、重要な問題の先送りや潜在化の要因となり、組織の学習機会を減らしてしまいます。根本的な問題解決がなされないため、もぐら叩きで同じ失敗を繰り返す(=学習しない)のです。
一方、右側の図は「変化対応・進化型組織メカニズム」です。腹を割った本質的な議論をすること、対話ベースのコミュニケーション、基準の共有など、まずはやってみるという素早い仮説・検証サイクルを回します。「おかしい」と言える、言い出しっぺが損をしない、部門の垣根を超える(=セクショナリズムの排除)ようなことが日常的に組織のあちこちで見られるようになります。どちらの組織が良いかは言うまでもないでしょう。
2つの基本原理
変革のシナリオづくりでカレンコンサルティングが大事にしている原理原則を示します。
原理1:学習する組織(ピーター・センゲ)
変革が自分の仕事にどう結びつくかは動機そのものになります。具体的には、「自分で問題を見出して変えていかなくてはいけない」という”気づきのプロセス”を入れることが大切です。
わかりやすい例で言えば、お祭りで神輿を担いでいる場面をイメージしてみてください。全員で神輿を担いでいるだろうと思っていたら、1人だけ掛け声は勇ましいものの、まったく担いでいません。では、どうしたら神輿を担がない人が担ぐようになるでしょうか。「神輿を担がないとまずいよなぁ…」と本人に気づかせるためにはどうしたらよいでしょうか。
気づいたことを変えていかないと”自分が困るプロセス”を仕掛けるがキーとなります。しかし、自ら問題を発見しても、なかなか動かない人はいます。動かない人に対しては、反発を招かない程度に強制力を働かせることも必要となります。
主体性を引き出すために当事者意識をどう植え付けるのか――言い過ぎたら”やらされ感”になってしまい、言わないといつまで経っても動きません。”気づきのプロセス”と”自分が困るプロセス”をうまく変革のプロセスにビルトインしていくシナリオや仕組みを作り上げていくことが求められます。どう作るか―― やらせるのではなく、助け合う・協力し合い、チームとして成果を出す、義務感ではなくワクワク感も時には必要です。
はじめから全員ではなく、まずは2割の人(現実的には数パーセント以下の場合も少なくありません)を動かし、確固たる軸を固めるところから着手し、内発的動機を高め、新しい考え方や仕事のやり方を見出していく流れになります。
原理2:変化の揺らぎ/プロセス・コンサルテーション(E.H.シャイン)
硬直化した組織とは、「人もコミュニケーションのシステムも凍っている」状態を言います。この凍りついた組織状態のまま、変革を進めようとすると壊れてしまいます。 そのため、”解凍(unfreezing)”というフェーズを必要とします。これは意図的に“ゆらぎ状態”を作り出すことで、組織を“不安定状態”にする――すなわち、「現状を変えなければならない」という“適度な危機感+緊張感”を組織内に創出することです。性質的に自然発生しにくいため、何らかの「場」を作ることやハード改革と組み合わせる必要があります。決して、トップダウンだけでは実現できるものではありません。変革の素養を持った人が、周囲に影響を与えていくことで、組織全体の活性化をはかるようなイメージです。古い価値基準からの脱却、社員が本音で語り合える、相談し合える関係性を構築していきます。
変革のギアチェンジ
人間や組織に無関心な人を変えることは、難しいです。問題意識の現れ方が文句や不平不満であっても、無言や無関心よりはまだ救いようがあります。これと同じように皆が皆、変革意識を持ち、自ら変えようという動きにはなりません。問題の有無にかかわらず、無関心・見ようとせず、「特に問題はない」と言い切ってしまうことが問題です。最初にこの「特に問題はない」という層を「現状に不満を感じる」層に変えることです。“ガス抜き”という言葉があるように、現状の不満を全て出し切ってしまうと、不満を言い続けていた自分自身を冷静に見つめ直す状態となります。「いつまでも不満を言い続けていても仕方ないよな」という状態に変容します。これがその次に位置する「何とかしないといけない」層の最初のきっかけとなります。一般に、「不平や不満、愚痴は思っていても言うな!」「ネガティブな意見はいらない」「建設的なことだけを言うように」など、企業という組織の中では心の声を素直に出せない状況やそれを正当化するための不文律が存在します。先の“ガス抜き”はこの不文律をあえて吐き出すことを行います。極論ですが、これらの不平・不満・愚痴が全て会社やマネジメントに問題があり、将来的に変わる見込みがないのであれば、そのような会社はさっさと辞めたほうが良いでしょう。少なくとも不満が出ることは、問題意識の表れであると同時に、組織に健全さが残っていたとと認識すべきです。
変化のステップと現象の現れ方
組織風土は、ある日突然変わるような特性を持っていません。暗黙のルール、不文律も含めて企業の体質や社風は社員の考え方に影響を及ぼし、行動特性まで支配します。目に見えない風土は、長い年月をかけて形成されてきたため、変えていくにも長い年月がかかると言えるでしょう。しかし、組織風土改革に時間をかけすぎて「仲良しクラブのだらだら改革」になってしまっては困ります。いわゆる「ソフト改革」のみを行うことによる弊害でしかありません。
変化をステップごとに見ると、最初は個人の意識・行動が変わる小さな変化から起こります。行動変革の初期段階は、”言葉”から始まり、会話の場面で見られるようになります。例えば、「今忙しいから…」が言い訳として使われなくなったり、相手の話に耳を傾け相談する場が増えるなどです。まずは個人が変わる、部門が変わる、組織が変わる、会社が変わるという変化のステップを踏みます。
目指すは自ら考えて動ける個人と組織
変化が激しい時代は今後も変わることはないでしょう。従来、「変化に対応することが大事」と言われ、企業は「ムダの削ぎ落とし」「ビジネスモデルを変える」「選択と集中」「海外進出」「競合とのアライアンス」など企業は様々な施策を取ってきました。今は、先が読めない時代です。これまでの「変化が激しいから変化に対応する」という考え方が通用しなくなってきました。“対応”は、あらゆる面において“後手”となります。「先が読めない時代=答えがない時代」です。従来型の問題解決や意思決定では変化のスピードについていけなくなることは明白です。言い換えれば、「答えを導き出している間に問題が変わってしまう」ことと同じで、永久に問題解決できません。したがって、「変化に対応する」という考え方は捨て去り、「自分の頭で考える」⇒「判断基準にしたがって物事を判断する」⇒「実行(行動)する」社員が求められます。
変革に向けたグランドデザイン
伝承(残すこと)と変革(変えること)を明確にすることから始めます。
変革推進者を当事者の立場で支援
変革には強力な意志とエネルギーが必要です。 変革を推進する上で、変革に対する不安・拒絶・抵抗に遭うことは避けて通れません。変わりたくない人は常に存在します。変革推進者は、変革の必要性を役員や上司、関係者に説き、部門間の調整もしながら、時には変革の矢面に立たされます。それでも負けることなく、変革を推進する率先垂範者であることが求められます。
カレンコンサルティングは変革推進者を見出し、その実行支援を当事者の立場と経営者の立場の両側面から、ハードを組み合わせながら組織全体を前向きにドライビングしていくお手伝いをします。
< Ⅲ:ハードとソフト | 🏡 組織風土 |