Ⅰ:組織設計
安易な組織変更は組織を壊す
組織に関して多くの企業で見られる例として、業績が悪化すると組織や人のせいにして組織構造をいじり出したり、組織の責任者(部門トップ)を入れ替えるなどが挙げられます。そしてこれらを組織改革と称していますが、これは誤りです。
組織はそれぞれの企業の状況と戦略に従って決めるべきものです。機械的に組織構造を変更したり人を動かすだけでは問題の本質的解決にはつながりません。組織のなかの人間が成果を上げやすくすることが重要です。
「組織は戦略に従う」vs.「戦略は組織に従う」
「組織は戦略に従う」――アルフレッド・D・チャンドラーJr.が著書『Strategy and Structure』の中で述べている考え方です。その一方で、「戦略は組織に従う」という考え方をイゴール・アンゾフは示しています。この二人の経営学者による考え方は一見対立しているように見えます。「組織」と「戦略」の主従関係から考えれば、「組織」は理念やビジョンに基づき策定された「戦略」に従うという考え方が自然で「組織は戦略に従う」という考え方に通じます。しかし、「組織」をその構造形態からとらえた場合、事業部制等の組織体制においては、組織の規模や成長等により制約されます。つまり、企業が理想として望む組織形態や組織構造をとることができない企業では、「戦略」が「組織」に従う場合も出てくるということになります。なぜなら「組織」を企業文化や風土、人的リソースととらえれば、今いる社員の社員数や能力に照らし合わせながら、考え得る「戦略」には限界があるからです。採り得る戦略が現有の「組織」に制限されるという考えである。このように考えると、「戦略」と「組織」はどちらが主でどちらが従と考えるのではなく、主従に捕われることなく、両方をバランスよく考えなければいけないことがわかります。 |
組織設計とは「成果を上げやすくするための組織づくり」
大事なことは、『組織のなかの人間が、成果を上げやすくすること』です。組織は働く社員の生産性を高めるための道具として考えたほうが良いでしょう。形だけの組織構造の探求ではなく、それぞれの仕事に合った組織を設計し、組織の中で働く社員が成果を出しやすくする。これが組織設計の本質です。
業績・成果を出すまでの道のりと「働きかけ」
下図は、企業組織の業績や成果に影響を与える「3つの働きかけ」を示したものです。
《協業の総体》は “業務行動” “学習” “意思決定” “心理的エネルギー” の4つで構成されます。この中で企業、経営者は個人の“業務行動”と“学習” に対して、直接働きかけをすることはできません。働きかけができるものは、“意思決定”と“心理的エネルギー”のみです。特にこの意思決定を決める要因には、目的・情報・思考様式・感情の4つが挙げられます。この4つの要因に働きかけを行うものが、“戦略による働きかけ” “経営システムによる働きかけ” “理念と人による働きかけ”です。
企業組織が行える働きかけのうち、”戦略による働きかけ”は「 経営戦略」が該当し、”理念と人による働きかけ”は「 経営理念」が該当します。
ここでは、“経営システムによる働きかけ” を『仕組み』と位置づけ、以下順番に示します。
組織構造と組織設計
組織変更は「部門名称を変える」「部門の構造(形)を変える」「組織図上の位置を変える」などの見える部分に目が行きがちです。同様に、誰が部門責任者を務めるかも注視されがちです。そうなるとどこの組織でも「適材適所」を自分の頭に描きながら組織構造が作りあげられます。組織が変わる、部門責任者が変わるたびに組織が変わり、戦略も変わる――このようなことが社内で慢性的に起きているようであれば、組織や社員が成長していない証拠です。『組織は戦略に従う』ことを目指しても、『戦略は組織に従う』状態から抜け出すことは困難です。
どういう組織の形にするか、誰が組織の頭となるかを気にする以前に、組織にどのような役割を持たせるのか、権限や責任の持たせ方、情報伝達、部門間の協議の場や業務プロセスをどう構築するかという観点を持ちたいものです。現場の問題やマイナス情報を積極的かつ意図的に上にあげる仕掛けをどう作り上げるか。組織のトップが変わった場合に、意思疎通や管理能力の差異により、組織そのものの機能が果たせなくなる場合もあり得ること、部門の問題を自分事(当事者)として捉えるか他人事として捉えるか、組織内のパワーバランスも重要です。
(1)組織の設計変数と考慮点
正しく「組織の機能定義」を行うために、「分業」と「調整」の2つの切り口で5つの変数を定めます。決して機械的にできるものではありません。
分業(仕事の役割分担)には仕事の単純化にともない専門性が高まるなどのメリットがある反面、仕事が単調化し変化への適応能力が下がるデメリットもあります。職務レベルでは個々人の業務効率追求のため、あるいは複雑な業務であればあるほど、業務の属人化は加速される傾向があります。権限は役割間の指揮命令系統をはっきりさせることですが、一方で権限を委譲し意思決定の責任の所在を明確にする目的もあります。部門化のことを組織設計と思われがちですが、きちんと情報共有や伝達のライン、部門間の協議の場(会議体など)の設計、ルール化までを含めて「組織設計」と言います。
さらに、組織を健全な状態で動かす・維持するためには、情報をどのようなパスで統合するか(管理者 or 現場に近いなど)、あるいは統合させないで組織内で分散共有させるか。コンフリクト(衝突、葛藤)が起こることは避けられないため、いかに”いいカタチ”で前向きにコンフリクトを出させるか。人とマネジメントスタイルが変わった際に組織の機能が損なわれないか(組織の機能を個人の能力、資質、適性への依存度が高いと起こり得る)、適材適所だけでなく配置転換による人材育成にも対応できるかなどを考慮する必要があります。これらは機械的に組織構造を決めることができないと述べた理由になります。
(2)組織の”規律”と”自律”
トレードオフの関係である「全体の規律」を重視するか、「部分の自律」を重視するかにより組織設計は変わります。これは組織や社員の成熟度や自律度に大きく依存します。
業務プロセスから行う組織設計と周辺の仕組み構築
組織設計は業務プロセスと切り離せない関係にあります。業務プロセスには業務の流れ、情報の流れ(共有、意思決定)のやり取りに加え、「組織機能・役割」や「責任と権限」を表記することができます。
組織設計の際に、実際の業務の流れをシミュレーションしながら組織構造を検討することが可能です。新規事業の立上げ、業務改善などによって業務プロセスが変更になった時、効率化や情報の集中(あるいは権限の分散)などで組織構造を変更せざるを得ない場合も起こります。
(1)「組織機能」と「責任と権限」
下記左図:業務フローの上には部門が書かれますが、これは「組織構造」そのものであり、組織の機能・役割を示していると見ることができます。
下記右図:同様に同一部門内において業務遂行者(担当者、上司など)を書く場合は「責任と権限」が示されることとなります。これを「タテ(縦)のフロー(プロセス)」と呼びます。
一般的に組織構造は組織図として示されることがほとんどで、その情報は”静的(static)”なものです。それを業務フローで示すことにより、「組織機能・役割」+「責任と権限」が”動的(dynamic)”になります。
(2)組織・部門の責任範囲
業務プロセスの視点で組織・部門の責任範囲を考えてみましょう。
下図は共に前工程(例:営業部門)から後工程(例:経理部門)へとつながる業務プロセスの一例です。ここでは、営業部門がお客さまから”A:契約書”と”B:エビデンス”を受領し、後工程の経理部門にこれらA,Bを渡すというシンプルなプロセスです。この会社では「契約書とそのエビデンスの両方が揃っていないと売上計上できない」と経理規程上、定まっているものとします。
図中、縦の赤線が部門の業務境界線であり、目に見えるものではありません。したがって、左図・右図においては業務プロセス上はまったく同じですが、業務境界線で異なることに気づくでしょう。営業部門の業務責任範囲(クロージングなど)が異なり、「営業の責任範囲はどこまで??」となりませんか。 契約書の件数で営業マンのインセンティブが決まる場合など、右図の行動をとりがちです。あとはここで示さなくとも予測がつくでしょう。
このように業務プロセスの観点で組織を見ることによって、組織・部門の責任範囲の曖昧なところが明確になります。また実態と経理規程がそぐわないなどのコンプライアンス上の問題も顕在化することができます。
(3)業務プロセスと一緒に考えるべき「仕組み」
業務改善や業務標準化を行う場合でかつ基幹システムの導入やリプレースを行う場合に多く見られるトラブルが、「運用で失敗する」ということです。失敗する原因は、組織風土やモチベーションなどの「ソフト」に起因することが少なくありません( 業務プロセス 「主体的な改善活動」)。
「ハード」の「仕組み」を疎かにしてしまうと、業務プロセスの変更に伴って、前述のシステム導入と同様に運用で失敗します。業務改善で出来た素晴らしい業務フローを運用するためには、組織や制度・規程と整合性が取れていないと「運用したくても運用できない」ということになりかねません。
以上、述べてきたように、組織設計においては単に組織の構造を変えるのみに留まらず、規程や制度の変更、業務プロセスの設計、責任と権限をどのように持たせるか、コミュニケーションライン(情報伝達・情報共有等のレポーティングパス、グループウェア等のシステム、会議体設計他)と一緒に考える必要があります。
カレンコンサルティングは豊富な経験と蓄積された知見をもとに、仕組み全体の最適化設計をお手伝いします。
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